JPNICレポート8
	吉村 伸
	サービス・プロバイダによるIPアドレスの割当て

	背景

  近年、インターネットに接続される組織の数は、世界的に指数関数的な増大
傾向を示しています。それにともない、組織に割り当てられるIPアドレスの数
も急速に増加しつつあり、近い将来次のような問題に直面すると予測されます。

1.クラスBのアドレス空間の枯渇
2.ルータのルーティング・テーブルのエントリ数の急激な増大による、ハード
ウェア資源(ルータのメモリなど)やルーティング管理に携わる人的資源の不
足
3.現在用いられている32ビットのIPアドレス空間の枯渇

  1および2の問題は、比較的短期間のうちに顕在化するものと思われます。そ
こで、IESG(Internet Engineering Steering Group)では、3に対する根本的
な解決(IPngの仕様決定および運用開始)が図られるまでのあいだ、CIDR
(Classless Inter-Domain Routing)[2]と呼ばれる方式を採用するとの合意
がなされています。これを受けて、JEPG/IP(Japanese Engineering &
Planning Group/IP)のAddress Space TaskForceでも、日本でのCIDRにのっとっ
たIPアドレスの割当て、ルーティングの実現に向けて、各方面との技術的な調
整を進めてきました。
  JPNICは、CIDRを念頭においたIPアドレスの割当てを国内でおこなっていま
す[3,4]。さらに、CIDRに対応可能なアドレスの割当てや、CIDRの下での階層
的なルーティング管理の実現[5]を促進するためにおこなうのが、今回紹介す
るサービス・プロバイダによるIPアドレスの割当てです[1]。
  まず、CIDRに対応する連続したIPアドレスのブロックを、JPNICがJPNIC会員
ネットワークに割り当てます。これは、会員ネットワークの運営するネットワー
クに接続される組織(すでに接続されている組織も含む)にIPアドレスを割り
当てるためです。その上で、そのアドレスブロックのなかに含まれるネットワー
ク・アドレスの割当て作業を会員ネットワークに委任します。


	パイロット・プロジェクト

  JPNICでは、この委任方式を具体化するための第1段階としてパイロット・プ
ロジェクトを開始しました。このプロジェクトでは、割当て方式や委任可能な
範囲の妥当性に関する実際的な検討を進め、上に述べた委任方式を部分的に施
行します。
  このパイロット・プロジェクトに参加しているJPNIC会員ネットワークは、
株式会社インターネットイニシアティブの運営するIIJインターネットと、日
本イーエヌエスAT&T株式会社の運営するSPINプロジェクトの2つです。
  今回の委任の目的は、あくまでもCIDR方式による割当て方法と運用に関する
問題点を明確にすることです。しかし、短期間といえどもIPアドレスの死蔵は
好ましいことではありません。
  そこで、JPNICでは、

●すでに実績がある
●プロジェクトの期間中に割当てがおこなわれる
●各種の懸案事項への迅速な対応が可能

の3つの要件を満たすパートナーという意味合いを重視しました。もちろん、
今回参加できなかった会員ネットワークも、将来にわたってこの方式によるア
ドレス割当てができないということではありません。
  以降では、パイロット・プロジェクト(以下、プロジェクトと略)の概要と、
これに参加するJPNIC会員ネットワークに委任されるIPアドレスの割当て作業
の範囲、また実際の割当てにあたって問題となる条件について述べます。

期間

  プロジェクトの期間は、1993年11月1日~1994年4月30日までの6カ月間をめ
どにしています。
  JPNIC運営委員会は、プロジェクト終了時までに、参加ネットワークにおけ
るIPアドレス割当ての進行状況や、実際の処理過程を通じて明らかになった問
題点などを考慮、再検討し、今後のIPアドレス割当て方式を決定します。
  プロジェクトの期間中であっても、JPNIC運営委員会が必要と認めれば次項
以下に述べる方式が変更されることもあります。その場合、JPNICはすみやか
にプロジェクト参加ネットワークに対してその旨を通知します。
  期間中に割り当てたIPアドレスについては、プロジェクト終了以降にいかな
る方式が採用されても正式な割当てとみなし、以後も有効なものとします。た
だし、プロジェクトへの参加ネットワークに接続されていない組織に対して、
プロジェクト参加組織がIPアドレスを割り当てることはできません。

アドレスブロックの割当て

  JPNICは、プロジェクトへの参加ネットワークに対してアドレスブロックを
割り当てます。このアドレスブロックは、CIDRブロックとして扱える連続した
256個のクラスC(以下1ブロックと呼ぶ)を単位とします。各会員ネットワー
クがプロジェクトに参加した時点で、JPNICは独立したアドレスブロックを1つ
割り当てます。以後、プロジェクトに参加する各ネットワークに接続される組
織へのIPアドレスの割当ては、そのネットワークに割り当てられたアドレスブ
ロックの範囲内でおこなわれます。
  割り当てられているアドレスブロックが残り少なくなった場合には、JPNIC
に対して新たなブロックの割当てを申請することができます。

アドレスの割当て方式

  今回のプロジェクトで参加ネットワークに委任されるのは、プロジェクト参
加ネットワークに接続される組織に対するクラスC×2個までのIPアドレス申請
の審査と、各ネットワーク用に割り当てられたアドレスブロックの範囲内での
IPアドレスの割当てです。接続されていない組織へのアドレス割当てはいっさ
いおこなえません。
  プロジェクト参加ネットワークは、希望組織からのIPアドレス取得申請を所
定の基準に従って審査します。この基準は「IPアドレス取得に関する技術ガイ
ド」[4]に記載されているものですが、すでにアドレスを取得している場合に
は、その個数も審査対象になりますので、注意が必要です。新規申請アドレス
の種類と個数のみにもとづいて審査し、割当てをおこなうことはできません。
  ただし、この割当て方式では経路情報の削減を第一義とするため、次の例外
規定が適用されます[1]。

「既にIPアドレスの割当を受けている組織が、既割当分のアドレスを組織内の
みで用い、その経路情報をインターネットに対して割当を受けたプロバイダ経
由ではアナウンスしない場合、既割当分の個数にかかわりなく、本プロジェク
トのブロックの中から、C1個に限り割当を受けることを認める。この割当は、
接続プロバイダを変更するときは、アドレスを返却し、新たにプロバイダから
割当を受け直すこととする。
  既取得アドレスの返却を行う場合の割当は通常通り処理する」

  すなわち、サービス・プロバイダがJPNICによる審査を待つことなく割り当
てられるアドレスは、既取得ぶんと新規割当てぶんの合計を「IPアドレス取得
に関する技術ガイド」[4]に記載されている基準値と照らし合わせて協議した
結果、クラスC×2個以下に収まる範囲まで、ということになります。つまり、
アドレスを取得していない組織にクラスCを1個または2個を割り当てる場合と、
すでに1個のクラスCを割り当てられている組織にクラスCをもう1個割り当てる
場合の2つのケースがあるということです。
  したがって、割当て作業にあたっては、サービス・プロバイダはかならず
JPNICデータベースを参照し、申請組織の既取得アドレスの種類と個数を確認
します。なお、後者の場合、新規に割り当てるアドレスがCIDRとして既取得の
アドレスと連続しないときは、既取得のアドレスを返還し、あらためてCIDRに
準拠した連続したアドレスの割当てを受けることはできます。
  審査の結果、クラスC×2個以下の割当手が妥当と判断され、申請組織とのあ
いだで合意に達した場合は、あらかじめJPNICから割り当てられているアドレ
スブロックのなかからIPアドレスが割り当てられます。
  それ以外の場合は、従来どおりJPNICが申請内容を審査し、割り当てられる
アドレスがクラスCを含むときはその個数を通知します。


		おわりに

  まだIPアドレスを取得していない組織がこれからインターネット接続を検討
する場合は、接続元が本プロジェクトへの参加ネットワークであると否とにか
かわらず、IPアドレスの取得について、そのネットワークの担当者と相談して
ください。
  IPネットワークを構築するための技術は日々進歩しています。複数のクラス
Cアドレスを使い、ネットワークを上手に構築する手段もできています。この
辺りは、専門家のアドバイスを受けたほうが望ましいでしょう。
					(よしむら・しん IIJ)


[参考文献]

[1]JPNIC、「JPNIC会員ネットワークによるIPアドレスの割り当てに関するガ
   イド」1993年10月

[2]V.Fuller,et al.,Classless Inter-Domain Routing(CIDR):an Address
   Assignment and Aggregation Strategy,RFC1519,Sept.1993

[3]E.Gerich,Guidelines for Management of IP Address Space,RFC1466,
  May.1993

[4]JEPG/IP,Address Space TaskForce,「IPアドレス取得に関する技術ガイド」
   1993年2月

[5]Y.Rekhter,et al.,An Architecture for IP Address Allocation with
   CIDR,RFC1518,Sept.1993