JPNICレポート7
	中山雅哉、相澤彰子
	国際的なNIC活動との関係

	はじめに

  JPNIC(日本ネットワークインフォメーションセンター)は日本を代表する
国内NIC(Country NIC)で、国内のインターネット資源の登録管理や情報の収
集・提供などの業務をおこなっています。
  日本のインターネットを円滑に機能させるため、JPNICは、国内はもとより
海外のインターネットとも協調しながら活動を進めています。たとえば、
JPNICは国内の各機関にIPアドレスを割り当てていますが、これは国際的なイ
ンターネット・アドレス管理機構IANA(Internet Assigned Numbers
Authority)からInterNIC(旧 The NIC)を介して割当て業務を委任
(delegate)されているからです。ドメイン名についても、日本の第1レベル
である.jpドメインは世界で唯一となるようにISOの国識別コードに準拠してい
ます。また、JPNICの提供するデータベース・サービスは国内ばかりでなく、
海外からも比較的よく利用されています。電子メールによる公開文書などの問
合せサービス(mail-server)では約4%が、whoisサービスでは全アクセスの
約23%が、それぞれ海外からの問合せです。

  インターネットの普及とともに、NIC活動の国際的な連携の必要性はますま
す高まっています。現在、インターネットの先進国を中心として、国内NICな
ど地域的なまとまりをもつNIC間の協調体制が整備されつつあります。とくに、
アジア・太平洋地域のNICであるAPNIC(Asia Pacific NIC)実験プロジェクト
の開始は、JPNICの今後の活動に重要な位置を占めるものです。今回は、JPNIC
の作業活動の1つでもあるAPNIC実験プロジェクトでの活動について、その歴史
的経緯や活動状況を紹介します。


	APNIC実験プロジェクト

開始までの経緯

  インターネットが米国政府の強力な財政的援助を受けて発展していた1990年
代初頭までは、NICといえば世界で唯一の”The NIC”(SRI-NIC、あるいはそ
の後身のnic.ddn.mil)のことでした。The NICは、アドレスの取得やネームサー
バーへの登録など、全世界からの申請を一手に引き受けて処理していました。
  しかしインターネットの急速な発展によって、この集中管理型のNIC構造に
変化が生じました。NICに階層構造をもたせて、グローバルなThe NICから地域
的なNICへの管理業務の分散化が図られるようになったのです。具体的には、
従来The NICが各組織に対して直接割り当てていたIPアドレスをブロック化し、
割当て業務を地域ごとのNICに委任するようになりました。この措置には、IP
アドレスの地域的なまとまりを重視したCIDRという新しい経路制御技術の導入
に対応する意味もありました。
  1992年4月には、ヨーロッパ地域を統括するRIPE(Reseaux IP Europeenne)
のNCC(Network Coordination Center)が発足しました。さらに1993年4月、
The NICは InterNICとして新たなスタートを切りました。現在、InterNICはグ
ローバルNICとしての役割を引き継ぐとともに、北米および周辺地域のNICとし
ても機能し、RIPE NCCなどと協調しながらサービスを実施しています。
  このような状況のなかで、1993年1月にホノルルで開催されたAPCCIRN
(Asia-Pacific Coordinating Committee for International Research
Networking:アジア・太平洋地域国際研究ネットワーク調整委員会)会議にお
いて、アジア・太平洋地域のNICにあたるAPNIC設立に向けた調査・実験が提案
されました。APCCIRNの参加各国のあいだでも、このような地域的NICの発足を
望む声が多かったため、APNICの実験プロジェクトが開始されることになりまし
た。1993年8月にサンフランシスコで開かれたAPCCIRN会議では、実験プロジェ
クトの期間を1993年9月~1994年6月と定め、実験プロジェクトに関する報告を
同会議でおこなうことが確認されています。

NIC機構のなかでの位置づけ

  APNICは世界のNIC機構のなかでどのように位置づけられるのでしょうか?図
1にAPNIC文書apnic-001.txt(図2参照)より引用したNICの階層構造を示しま
す。
  現在、インターネットでは、世界を北米、ヨーロッパ、アジア・太洋州を中
心とする3つの地域に分け、それぞれを代表する地域NIC(Regional Registry)
を設ける方向で議論が進められています。
  この構想にもとづいてAPNICが正式に発足すれば、日本の国内NIC(図1では
National Registry)であるJPNICは、APNICの下で相互に協力や支援をおこな
いながら機能していくことになります。そこで、JPNICでは、APNIC実験プロジェ
クトに対しJPNIC運営資金の10%を上限として資金/資源を供与することとし、
APNICの発足に可能なかぎり協力する旨、合意しました。

目的

  APNIC実験プロジェクトの目的は、アジア・太洋州地域におけるネットワー
ク協調に向けた叩き台を作ることにあります。そのための課題として、次のよ
うな項目が挙げられます。

1.IPアドレスの登録業務に関する検討
アジア・太平洋地域において、IPアドレスの割当て方式に一貫性をもたせるた
めのガイドラインの策定。IPアドレスの登録に関連するデータベースの作成な
どの事項に関する検討。緊急課題として、CIDR方式におけるアジア・太洋州地
域ブロックの各国に対する割当て方法の決定。

2.経路情報の登録業務に関する検討
経路情報を管理するためのデータベースの作成。将来的な課題として、CIDRの
ためのデータベースの作成と管理に関する検討。

3.他地域のNICとの協調体制の整備
APNICとInter NIC、RIPE NCC、さらに各国のNIC機関のあいだで連絡や情報交
換をおこなうための各種データ形式の整備。また、NICをもたない地域に対す
るサポート体制の整備。

4.APNICの組織体制に関する検討
APNICの活動を支えるための財政基盤モデルの作成。人的・ハードウェア的な
サポートの見積りなどの検討。

  そのほかに、APNICが活動していくうえで解決すべきさまざまな問題点を見
極めることも、実験プロジェクトの目的になっています。具体的には、表1に
示す12の項目が提案され、その検討作業が進められています。

活動状況

  APNIC実験プロジェクトでは、JPNICの作業部会の1つであるAPNIC WGのメン
バーを中心に、韓国、オーストラリアなどの各国NICからAPNICに関心をもつ人
びとが作業スタッフとして加わっています。
  APNIC実験プロジェクトは、これまでメーリングリストを中心とした議論に
より作業を進め、IPアドレスの申請書式の整備や、各国の今後のIPアドレス需
要予測の調査をおこなってきました。プロジェクトの活動成果は、APNIC文書
としてftp.apnic.netで順次公開していきます。1994年1月15日現在、表2に示
す7文書がanonymous FTPで入手できます。これらの文書にもとづいて、1993年
12月に台北でおこなわれたAPCCIRN会議では実験プロジェクトの中間報告がお
こなわれました。また、実験プロジェクトが終了する1994年6月にはAPCCIRN会
議で最終報告をおこない、財政基盤モデルなどについて提案することになって
います。


	おわりに

  APNIC実験プロジェクトは、献身的なスタッフにも恵まれて順調なスタート
を切りました。実験プロジェクトが終了する1994年6月以降に、APNICをいかに
安定した運用体制で立ち上げるかが今後の課題です。そのためにも、日本ある
いはJPNICからの協力が期待されています。
  この実験プロジェクトに対するご意見、ご要望などがありましたら、下記の
窓口までお寄せください。
				(なかやま・まさや  東京大学
				  あいざわ・あきこ  学術情報センター)

●APNIC実験プロジェクト連絡先
Asia Pacific Networki Information Center
	c/o University of Tokyo, Computer Center
	2-11-16 Yayoi, Bunkyo-ku
	Tokyo 113 JAPAN
	E-mail:hostmaster@apnic.net
	Tel:+81-3-5684-7747
	Fax:+81-3-5684-7256


図1 世界における書くNICの構造

		      Global Registry
		        (InterNIC)
                         /  |  ¥
		        /   |   ¥
                       /    |    ¥
		Regional   ...   Regional
		Registry         Registry
		(APNIC)          (RIPE NCC)
	       /   |   ¥
              /    |    ¥
             /     |     ¥
       National  Local    National
       Registry  Registry  Registry
                            /  |  ¥
                           /   |   ¥
                          /    |    ¥
                      Local   ...   Local
                     Registry      Registry


表1 APNIC実験プロジェクトの作業項目
	1.Functions of the APNIC
	2.Definition of the Asia Pacific Region
	3.Class B Network Allocations
	4.Class C Network Allocations
	5.WHOIS Database Software
	6.Common NIC Domain Name Format
	7.Common NIC Contact Point
	8.Information Distribution
	9.Languages
       10.Routing Registry
       11.Certification of National NICs
       12.Statistics collection and repository
			(apnic-004.txtより)


表2 APNIC文書一覧
	(ftp.apnic.net:/pub/apnic/docs/english)
ファイル名	タイトル
apnic-001.txt	APNIC IP Network Address Application Form Explanation
apnic-002.txt	APNIC Network Address Application Form
apnic-003.txt	APNIC Pilot Project Proposal
apnic-004.txt	Various Proposal for the APNIC
apnic-005.txt	APNIC Pilot Project Organizational Proposals and a
		Preliminary Budget
apnic-006.txt	APNIC Pilot Project Midterm Status Report
apnic-007.txt	Proposal for Distributed APNIC Operations