JPNICレポート4 佐野 晋 会員と会費 はじめに JPNICは、各ネットワーク・プロジェクトを会員とする任意団体です。そし て、その運営のための主たる財源には会員からの会費が充てられています。で すから、JPNICの会員・会費制度は、ネットワーク・プロジェクトを介してイ ンターネットに接続し、それを利用されている皆さんには直接の関係はないか もしれません。しかし、最近は地域ネットワークや商用インターネットなど、 接続組織から運用資金を徴収して運営する新しいタイプのネットワーク・プロ ジェクトも現れています。それにともない、これらのネットワークがJPNICに 参加する際の会費の負担が議論されるなど、JPNICの会員種別や会費に関心を 寄せる方も増えてきました。そこで、今回はこのJPNICの会員と会費の仕組み について説明します。 以降で説明する内容は、JPNICの規程と細則にもとづいています。さらに詳 しい内容を知りたい方は、JPNICのFTPサーバーで公開されている規程と細則 (*1)を取り寄せて参照してください。 *注1 JPNICのanonymous FTPサーバーftp.nic.ad.jp上のディレクトリ /pub/jpnic-pubの下に規程、細則を念むJPNICの公開文書が保存されています。 後述のJCRNに関する公開資料も、同じサーバーのディレクトリ/pub/jcrnの 下に保存されています。 JPNICの会員 JPNICの会員には正会員と賛助会員がありますがここでは正会員について説 明します。JPNICの正会員は、インターネットに参加している各組織や個人利 用者ではなく、ネットワークを運用しているネットワーク・プロジェクトです。 これは組織の実体と運用規約が明確なネットワークで、具体的にはTISN,WIDE インターネットなどのネットワーク・プロジェクト、学術情報センター、イン ターネット・サービス提供会社の運営するインターネット(いわゆる商用イン ターネット)、地域ネットワークなどが該当します。この連載の第1回(1993年 9月号)でも紹介したとおり、ネットワーク・プロジェクトを単位とする会員構 成になっているのは、JPNICが各ネットワークの共通の仕事をおこなうセンター として発足したことによります。 正会員となったネットワーク・プロジェクトは、代表者をJPNIC委員として 登録します。JPNICの活動方針は、このJPNIC委員によって構成される総会やそ こで選出される理事会によって決定されます。また、実際の活動は理事会が任 命した運営委員と事務局がおこないます。 正会員は、運営組織の性恪やネットワークの目的によってタイプA,Bの2種 類に分かれています。タイプAは非営利団体が非営利目的で運用する学術研究 ネットワークで、タイプBはそれ以外のネットワークです。また、正会員のネッ トワークの接続組織数やユーザー数を11に区分し、ネットワークの規模に応じ て会費の口数や登録できる委員の最大人数を決めています。表1に各区分ごと の会費、登録委員数を示します。 学術目的でも営利組織が運用しているネットワークであったり、非営利団体 が運用していても、企業活動など営利目的の通信が許可されているネットワー クは、タイプBに分類されます。 学術研究ネットワークの認定 前記のように、タイプAの会員は次の3つの要件を満たすものでなければな りません。 1.非営利団体が運営していること 2.非営利目的で運用されていること 3.学術研究ネットワークであること 1と2は各ネットワーク・プロジェクトの利用規約などから比較的簡単に判断 できますが、3の判断はJPNICでは下せません。そこで、現在はこの判断を研究 ネットワーク連合委員会(JCRN:Japan Committee for Research�Network)に 委ねています。 1990年10月に発足したJCRNは、国内の情報処理学会、電子情報通信学会をは じめとするおもな学会と学術ネットワーク代表者からなる委員会で、国内のコ ンピュータ・ネットワークの学術研究面での利用推進や調整をおこなっていま す。JCRNの委員長は日本大学の野口正一教授、事務局は東京大学の石田晴久教 授のもとにあります。 JPNICにタイプAの正会員として入会する場合は、 あらかじめJCRNから学術 研究ネットワークとしての認定を受ける必要があります。ただし、今年度に限 り、非営利団体が非営利目的で運用するものはJCRNの認定の有無にかかわらず タイプAの正会員として登録することができます。 会費の考え方 JPNICは営利を目的としないので、必要とする経費以上の会贅を徴収するこ とはできません。一方、これらの経費は、できるだけ公平に無理なく会員に分 担してもらわなければなりません。表1に記した会費は、1992年に当時のJNIC の運営委員会において定められたものです。決定にあたっては、関連するネッ トワーク・プロジェクトの意見を参考に、1993年度にJPNICが必要とするであ ろう経費と、入会が予想されるネットワーク・プロジェクトとその規模をもと に算出しました。1994年度の会費は、JPNICの来年度の活動計画と予算案の作 成、および来年度の入会状況予測などにもとづいて再検討されます。 現在の会費は、規模が大きくなるにしたがってほぼ対数的に高くなります。 また、学術研究ネットワークとそれ以外のネットワークの会費には1対5の格差 があります。このようになった背景を簡単に説明します。 規模の増大につれて会費が高くなるのは、JPNICの活動に必要な経費は会員 ネットワークの規模に応じて分担するという発想によるものです。また、会費 がほぼ対数的に高くなるのは次のような考えにもとづいています。 ネットワークの規模が大きくなるとアドレスやネームサーバーの管理の手間 が増えますが、会員ネットワーク内での作業分担もあり、かならずしも規模に 比例して経費がかかるわけではありません。また、小さなネットワークなら手 間がかからないというわけでもありません。プロジェクト・データベースのメ ンテナンスや事務手続きなど、大きなネットワーク・プロジェクトと同様な労 力と時間を要する作業が数多くあります。規模と会費の関係は、これらの点を 考慮した結果です。 JPNICが管理しているIPアドレスやドメイン名などのネットワーク資源/情 報は、ネットワークにかかわる人たちの共通の資産として、公平に管理、運営 されなければなりません。地域ネットワークや商用インターネットの出現によっ て、これらの資源は学術研究ネットワークだけのものではなくなってきました。 ここで強調しておきたいのは、現在のJPNICのタイプA,Bの会費格差は、学術 研究ネットワークを優遇するための措置ではないという点です。現在の、 JPNICは、会費のみによって運営されているわけではありません。実際には、 ネットワーク・プロジェクトのボランティア・スタッフによる活動に負うとこ ろも大きいのが現状です。ボランティア・スタッフの活動と持出し設備などを 経費や設備費に計上すると、JPNICの実質的な活動費は現在の会費収入の5倍程 度になると見積もられています。そして、これらの活動の大半は学術研究ネッ トワークの関係者によっておこなわれています。一方では、学術研究ネットワー クは会費より人的な頁献のほうが容易であり、商用インターネットや会費制の 地域ネットワークの場合は、人的な貢献より会費で分担するほうが容易である という実情も考慮する必要があります。したがって、この「1対5」という格差 は、学術研究ネットワークは5分の1だけ負担すればよいという意味ではなく、 残りの5分の4はボランティア・ベースの人的な貢献が期待されていると考えて いただいたほうが妥当でしょう。 JPNICの今後の活動を考えると、ボランティアに頼る比率を減らし、さらに 公平な費用分担の体制を確立しなければなりません。将来的には、タイプA,B の会費格差を縮めていくことも検討されています。 おわりに JPNICの役割りは、さらに重要なものとなってきています。国内ではインター ネットの普及によってアドレス割当て、ドメイン管理の事務手続きが急増して います。また、ドメイン名サーバーの安定運用やオンライン情報サービスの機 能向上も図らねばなりません。さらに、lnterNICや他国のNICとのネットワー ク情報データベースの情報交換、日本を含む環太平洋ネットワークの情報をと りまとめるAPNIC設立への協力など、国際協調関係においても多くの作業が計 画されています。 これらは、日本のインターネット環境を維持し、世界と接 続するために不可欠な仕事です。JPNICの活動を円滑におこない、安定した体 制を確立するためにも、会費やボランティア・スタッフのあり方などを皆さん と一緒に考えていかねばならないと思います。 (さの・すすむ WIDEプロジェクト/NEC)