JPNICレポート3
	吉村 伸
	IPアドレスの割当て

	IPアドレスの枯渇

 IPアドレスは、インターネットの運用上きわめて重要なネットワーク資源で
あり、その割当て業務はNICでおこなわれています。ただし、日本でのIPアド
レスの割当てはJPNIC がおこなっています。
  IPアドレスはドメイン名と異なり、限られた資源です。この数年間のインター
ネットの爆発的成長は、IPアドレスの枯渇という深刻な問題をもたらしました。
1~2年前まで、IPアドレスの割当てに関しては、経路制御情報を少なくする目
的からクラスBの利用が積極的に推進されていました。組織内ではサブネット
を利用し、組織外への経路情報を1つにすることが推奨されたわけです。とこ
ろが、32ビットのアドレス空間では、クラスBのアドレスは16,383個しかなく
(図1)、この方針で割り当てていくと、クラスBがなくなってしまうという事
態に直面してしまったのです。
  もう1つの要因として、クラスCのネットワーク・アドレスがサポートできる
空間が多くの組織にとっては小さすぎることが挙げられます。クラスBのネッ
トワーク・アドレスは、多くの組織で実際に必要されるアドレス空間とくらべ
て広すぎるのですが、そのようなこともあって多用されてきました。
  このような現状への対策として、積極的にクラスCを割り当てる方向へと方
針が変更されました。

CIDRと経路制御

 その技術的な背景には、1992年に提案されたCIDR(Ciassless Inter-Domain
Routing)があります。CIDRは、従来のクラス分けで定義されるネットワーク
とホストの境界をなくし、任意の大きさのネットワークに対応できるようにし
ようという考え方にもとづいています。CIDRの経路制御においては、ネットマ
スクも同時にアナウンスし、ある範囲のネットワーク全体に対する経路情報を
集積することによって経路制御の負荷の軽減も図られるようになっています。
 この技術が普及すればクラスCでは小さすぎるがクラスBでは大きすぎるよう
な、現在インターネットに接続されている大多数の組織にとって、ほどほどの
大きさのアドレス空間を割り当てることができ、アドレス空間の効率的な利用
が可能になります。
 しかし、現状ではすべてのTCP/IP関連の製品をすぐさまこれに対応させるこ
とはできません。そこで過渡的には、

●1つの組織には、2の冪剰個のクラスCのネットワーク・アドレスを割り当て
る 
 これによって、アドレスのビットパターンの先頭から、たとえば20ビットだ
けを取り出せば、クラスCの16個ぶんを表現できるようになります。
●組織内、末端ネットワークでは、これを従来どおり複数のクラスC,あるい
はそのサブネットとして取り扱う
●必要に応じてインターネット側で複数のクラスCの経路情報を1つに集成
(aggregate)し、経路制御の負荷を軽減する

という方法が考えられます。このような対策をとれば、一部のルータをCIDRに
対応させるだけで、クラスBに代えて複数のクラスCのネットワーク・アドレス
を割り当てることによって増加した経路制御のオーバーヘッドを抑えることが
できるわけです。
 この考え方をさらに進めて、ネットワーク・トポロジーを考慮したアドレス
割当てをおこない、経路のさらなる集成を可能にすることが検討されています。
NSFNET上の経路情報は、図2のように爆発的に増加しています。これはすでに
大きなオーバーヘッドになっており、これを食い止めるのも大きな課題となっ
ています。RFC1466に"Pacific Rimは、202.0.0.0~203.255.255.255まで”と
記載されているのは、この方法を用いて"routing�aggregation”をおこなえ
ば経路情報を減らせる可能性があるという考えにもとづいています。つまり、
先頭7ビットが1100101であればPacific Rim方面ヘパケットを送ればよいとい
うことが分かわけです。たとえばアドレス空間が203.2.0.0-203.2.255.0まで
のネットワークは、Pacific Rimの外部からはnet 203.2.0.0 netmask
255.255.0.0という1つのネットワークと みなすことができます。
 現在はクラスCだけですがCIDRはクラスA,Bにも原理的には適用可能です。
しかしこの場合は、そのネットワークに接続されるすべての機器がCIDRに対応
していなければなりません。したがって、これは次のステップと考えられてい
ます。

なぜ、64ビットにしないの?

 32ビットのアドレス空間が狭ければ、拡げればいいんじゃないの?という提
案は当然です。もちろん、そのための検討もおこなわれています。東京23区の
電話番号の局番を3桁から4桁にしたことと同じように考えれば、一見簡単なこ
とのように思われるかもしれません。しかし、電話の場合は交換機がNTTだけ
に集中しているのに対して、インターネットではルータが分散しているだけで
はなく、根本的には個々のコンピュータが経路を判断しています。つまり、す
べてのコンピュータが変更を余儀なくされる可能性があるわけです。
 このような大変更は、考えうるさまざまな問題(たとえば移動ノード)に対
応できるアドレス体系、技術を包含することが望ましいとの観点から検討がお
こなわれています。これが実際に利用可能になるまでには多少時間が必要なの
で、それまでのあいだは現在のIPと32ビットのアドレス空間を利用していくし
かありません。CIDRには、(言葉は悪いですが)時問稼ぎ的な意味合いがあり
ます。

インターネットとIPアドレス

 IPアドレスは、TCP/IPの技術でネットワークを構築する場合にかならず必要
となるものです。IPアドレスはいったん使い始めると、その変更には大変な労
力を必要とします。
 そこで、従来はとりあえず正式なアドレスを取得して運用するという考え方
でした。そうしておけば、将来、外部接続が発生してもアドレスを変更せずに
すみます。また、外部接続が必要なネットワークが組織内の一部であっても、
トラブルを防止するために正式なアドレスを取得していました。
 さらに大規模な組織では、これまでの技術ではクラスAやクラスBのサブネッ
トとして運用するほうが容易であるとの考えにもとづき、クラスBを申請する
傾向が顕著でした。
 しかし、現在はIPアドレスを世界中が相互に接続されたインターネット
(The Internet)と強く関係づける傾向があり、インターネットに接続するた
めのアドレスであるとの認識も浸透してきています。 


	IPアドレスの割当て

 IPアドレスは、名前空間が限定されており、可変長のアドレス空間が利用で
きるドメイン名とは大きく異なります。実際に割当てを申請する前に、専門家
と十分に相談してください。とくにインターネット接続を予定している場合に
は、インターネット・プロバイダに相談することをお勧めします。
 現在の割当ての基準になっているのは、24カ月後(2年後)のネットワーク
規模の予測です。これは、5年後ではIPアドレスの体系自体が現状と同一とは
考えられないというのが理由の1つです。
 クラスAアドレスのうち、64.0.0.0~127.0.0.0は割当てをおこなわない
(予約)ことになっています。当面、新しいクラスAの割当てはないでしょう。
クラスAの割当ては、IANA(lnternet Assigned Numbers Authority)の判断に
よります。
 クラスBアドレスの割当ては、24カ月後の予則で32個以上のサブネットと
4,096個以上のアドレス数が必要で、かつクラスCのブロック(32または64個)
でのネットワーク構築が技術的に不可能という基準にもとづいています。クラ
スBアドレス申請は、Internet Registry(現在はlnterNIC)によって検討され
ます。したがって、当然のことながらその理由は英文で記述しなければなりま
せん。これは厳密に検討されます。クラスBの割当てがおこなわれる保証はな
く、申請に十分な根拠(24カ月後のサブネット数、サブネット中のホスト数、
クラスCのブロックではネットワーク構築ができないことを明確に示すこと)
がなければ、クラスCのブロックの割当てがおこなわれます。
 JPNICではInterNICへの取次ぎをおこなっていますが、それもクラスBの割当
てが必要と判断される場合に限られています。lnterNICでは、アドレス空間の
残量を考えながら判断しているので、実際の割当てはJPNICの取次ぎ基準より相
当厳しいものになっています。したがって、JPNICでクラスBの割当てが受けら
れなかったからといって直接lnterNICに申請しても、割当てが受けられる可能
性はまずありません。
 JPNICで割当てができるのはクラスCのみです。クラスCアドレスは、1つで
254個のホストを扱うことができます。しかし、サブネットや運用上の便宜を
考えると、限度いっぱいまで利用することは困難です。JPNICでは、24カ月後
の予測ホスト数を100で割った数を2の冪乗に切り上げた数字を基準に判断して
います。ただし、割当て上限は原則的に64個で、これを超える場合は審議の対
象になります。


	おわりに

  IPアドレスを取り巻く技術、状況は時々刻々と変化しています。割当て申請
をされる方からは、JPNICの対応は緩慢かつ不親切にみえるかもしれません。
しかし、有限の資源を世界中で公平に割り当てるという作業は容易ではありま
せん。
  従来、日本ではインターネット接続を意識してアドレス割当てを受けるほう
がむしろ少数でしたが、コマーシャル・サービスの出現でインターネット接続
を前提にすることが多くなってきました。
  IPアドレスはインターネットの相互接続性を管理するもっとも重要な部分で
す。急成長を続けるインターネットに対応すべくアドレスの扱いが変化してい
ます。ご理解とご協力をお願いいたします。
					(よしむら・しん IIJ)